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札幌高等裁判所 平成3年(行コ)3号 判決

甲事件控訴人、乙事件被控訴人(第一審原告)

ネッスル株式会社

右代表者代表取締役

マイケル・ウィリアム・オリバー・ギヤレット

甲事件控訴人、乙事件被控訴人(第一審原告)

日高乳業株式会社

右代表者代表清算人

湯浅恭三

右両名訴訟代理人弁護士

中筋一朗

益田哲生

中町誠

甲事件被控訴人(第一審被告)

北海道地方労働委員会

右代表者会長

二宮喜治

右指定代理人

中島一郎

外五名

甲事件被控訴人補助参加人(第一審被告補助参加人)

ネッスル日本労働組合

右代表者本部執行委員長

斉藤勝一

甲事件被控訴人補助参加人、乙事件控訴人(第一審被告補助参加人)

ネッスル日本労働組合日高支部

右代表者執行委員長

秋田静夫

右両名訴訟代理人弁護士

古川景一

市川守弘

岡村親宜

主文

甲事件控訴人、乙事件被控訴人(第一審原告)らの本件控訴を棄却する。

乙事件控訴人、甲事件被控訴人補助参加人(第一審被告補助参加人)ネッスル日本労働組合日高支部の本件控訴を棄却する。

甲事件に関する控訴費用及び甲事件被控訴人補助参加人(第一審被告補助参加人)ネッスル日本労働組合の参加により当審において生じた費用は甲事件控訴人、乙事件被控訴人(第一審原告)らの負担とし、乙事件に関する控訴費用及び乙事件控訴人、甲事件被控訴人補助参加人(第一審被告補助参加人)ネッスル日本労働組合日高支部の参加によって当審において生じた費用は乙事件控訴人、甲事件被控訴人補助参加人(第一審被告補助参加人)ネッスル日本労働組合日高支部の負担とする。

事実

第一  甲事件について、甲事件控訴人、乙事件被控訴人(第一審原告)(以下「第一審原告」という。)らは、「原判決中、主文第三項、第五項を除き、これを取り消す。甲事件被控訴人(第一審被告)(以下「第一審被告」という。)が昭和五八年道委不第一号、同第二号及び昭和五九年道委不第五号不当労働行為救済申立事件について、昭和六二年二月二七日付でした命令のうち、主文第一項ないし第四項の部分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とし、補助参加により生じた費用は、甲事件被控訴人補助参加人(第一審被告補助参加人)ネッスル日本労働組合(以下原判決に従い単に「補助参加人ネッスル労組」という。)の負担とする。」との判決を求め、第一審被告は、控訴棄却の判決を求めた。

乙事件について、乙事件控訴人、甲事件被控訴人補助参加人(第一審被告補助参加人)ネッスル日本労働組合日高支部(以下原判決に従い単に「補助参加人労組日高支部」という。)は、「原判決中、主文第三項、第五項を取り消す。補助参加人労組日高支部の補助参加申立を認可する。補助参加人労組日高支部の参加により生じた費用及び参加に対する異議により生じた費用は、第一、二審とも、第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、第一審原告らは、控訴棄却の判決を求めた。

第二  当事者の主張は、次のとおり附加訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決三枚目中、裏三行目の「存在」の次に「(当事者間に争いがない。)」を加える。

二  同六枚目中、裏一〇行目から裏一一行目にかけての「西日本酪農協同株式会社に対し、」を削る。

三  同七枚目中、裏六行目の「否認する。」の次に「仮に第一審被告主張の言動が存在したとしても、それらの言動のあった当時存在していたのは元ネッスル労組のみであり、前労組日高支部の組織はなかったから、その組織を弱体化させることはありえなかった」を加える。

四  同八枚目中、表八行目の「瑕疵である。」の次に「少なくとも、前記二の2の(三)の支配介入の言動に関する限り、これらの言動より後に生じた補助参加人らには救済申立の当事者適格がない。」を加え、裏九行目の「である。」の次に「このことは、本命令中主文第二項後段の金銭支払を命じた部分にも妥当する。すなわち、救済命令は使用者に対して公法上の義務を課する処分に留まり、労働組合に公法上の権利を付与するものではないから、前労組日高支部の清算の結了を待つまでもなく、この部分も拘束力を失ったというべきである。」を加える。

五  同一〇枚目中、表六行目の「のうち」から表八行目の「有していたこと」までを削り、裏四行目の「解散」の次に「があったとしても、これら」を加え、裏六行目の「決定をした」の次に「とされる」を加える。

六  同一一枚目中、裏八行目の「原告ら」の次に「の異議」を加え、裏一三行目の次に行を改めて

「九 右異議に対する補助参加人労組日高支部の主張

最後まで残っていた補助参加人労組日高支部の組合員三名が脱退の意思表示をしたからといって、同支部が自然消滅する謂れはない。すなわち、民法、労組法には解散に関する規定はあるが、どこにも自然消滅の規定はなく、また労組法は構成員の存否の問題と法人格の問題とを切り離しているからである。さらに、団結権を保障する憲法二八条、結社の自由を保障する憲法二一条の規定の趣旨、人事異動が頻繁に行われるわが国の企業の実態に照らせば、労働組合支部構成員が一時的に欠ける事態になったとしても、その都度解散、清算をすべきであると解するのは不合理であり、その支部の管理運営は労働組合本部の自治に委ねられるべきであり、自然消滅とされるべきでないのはもちろんである。」を加える。

七  同三一枚目中、表一行目の「主文」の次に「目録」を加える。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

第一原判決「事実及び理由」の「第四 判断」の説示は、次のとおり附加訂正するほかは当裁判所の認定判断と同一であるから、これを引用する。

一原判決一二枚目中、表一一行目の「前労組日高支部は」から表一二行目の「当事者間に争いがない。」までを「丙第四号証の一ないし三、秋田静夫の供述(なお、同人は本件訴訟当事者の代表者ではなく、補助参加人労組日高支部の代表者であるにすぎないから、証人尋問の方式により尋問すべきであるのに、原審は同人を補助参加人代表者として当事者尋問しているが、当事者双方から異議の申出がないから、責問権の放棄により瑕疵は治癒されたというべきである。)と弁論の全趣旨によれば、昭和六一年春頃までに前労組日高支部に属する労働組合員は磯貝昭広ら三名のみであったが、この三名も、昭和六二年二月二八日補助参加人ネッスル労組に対し脱退の意思表示をし、同年三月六日頃同補助参加人にその旨の届出書面を提出して前労組日高支部から脱退したことから、遅くとも同月六日頃には日高工場から前労組日高支部の組合員が一人もいなくなったこと、第一審原告日高乳業は、昭和六二年四月第一審原告らと経営上のつながりを持たない第三者である南日本酪農協同株式会社に対して不動産を含め日高工場の営業施設を譲渡したことが認められる。」に改め、表一三行目の「ネッスル」の次に「日本」を加え、同行目の「規約)」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、裏一行目の「労組は」の次に「、主として第一審原告ネッスルの従業員により構成され」を加え、同行目の「できること、」の次に「右規約は一五条一項において」を加え、裏七行目の「存在しなくなったことは」を「存在しなくなり、しかも経営者側の営業譲渡により日高工場に補助参加人ネッスル労組の組合員が現れる現実的可能性が当面失われたことは」に改め、同行目の「消滅事由となる。」の次に「なお、丙第五号証によれば、補助参加人ネッスル労組の規約一五条二項には、『支部の設置、改廃については、本部執行委員会の決定による。ただし、この場合は事前または事後に全国大会の承認を得る。』との規定が設けられていることが認められる。しかし、支部組合員が欠亡したときは、労働組合としての支部組合の存立要件である人的構成要素を欠映し、労働組合としての実体が自然消滅したことになるのであるから、右の条項の適用される余地はないというべきである。」を加える。

二同一三枚目中、表七行目の「事実によれば、」の次に「前労組日高支部は」を加え、表八行目の「昭和六二年三月二〇日」を「、遅くとも昭和六二年三月六日」に改め、表一〇行目の「証拠はない。」の次に「なお、右のとおり、前労組日高支部が自然消滅したと認めるのは、その労働組合としての実体を喪失した事実をそのまま評価するものにすぎないから、この認定が労働組合法一〇条、一二条、民法六八条二項の規定に反するとされるべき理由はないし、もとより憲法二八条、二一条の趣旨に違反するとの評価を受けるべき謂れもないことも当然である。」を加え、裏八行目の「原告ら及び補助参加人ネッスル労組ら申立人の関係について」を「本件救済命令における当事者適格等について」に改め、裏九行目の「原告らの関係」の次に「及び本件救済命令における第一審原告らの当事者適格」を加え、裏一〇行目の「次の事実は当事者間に争いがない。」を「乙第二〇六号証の一、第二八三号証及び弁論の全趣旨(第一審被告による本件救済命令の命令書(甲第一号証)記載の認定と第一審原告らの主張の間に食違いがないことを含む。)によれば次の事実を認めることができる。」に改める。

三同一四枚目中、裏一行目の「行われてきた。」の次に「(この事実は当事者間に争いがない。)」を加え、裏三行目の「、かつ」から裏四行目の「存在し」までを削り、裏四行目の「た。」の次に「(この事実は当事者間に争いがない。)」を加え、同行目の次に行を改めて

「更に、〈書証番号略〉、秋田静夫の供述と弁論の全趣旨によれば、第一審原告日高乳業と第一審原告ネッスルとは、右のとおり業務提携の合意をして密接な関係にあったこと、第一審原告日高乳業の従業員は正社員と臨時社員とからなり、極めて少数の臨時社員こそ、第一審原告ネッスルの関与のないまま第一審原告日高乳業により独自に採用され、その労働条件の決定に第一審原告ネッスルが関与することはなかったものの、正社員は、すべて第一審原告ネッスルにより採用されて第一審原告ネッスルから出向した従業員であり、これらの正社員の数に比して臨時社員の数は極めて少なかったこと、第一審原告日高乳業の設立時に、第一審原告日高乳業と元ネッスル労組とは第一審原告ネッスルと元ネッスル労組との間で決定した労働条件を日高工場に適用するとの合意をしていたことから、日高工場での労働条件も結局は、元ネッスル労組と第一審原告ネッスルとの交渉により決定されていたこと、第一審原告日高乳業内部での人事異動はその工場長によって決定されていたが、その工場長の地位は第一審原告ネッスルからの出向者により占められるのが当然とされており、日高工場においては第一審原告ネッスルと人事的にきわめて密接な交流が図られていたことも認められる。

以上の認定事実によれば、第一審原告日高乳業は実質的に第一審原告ネッスルの一工場と同視することが可能であり、少なくとも日高工場における労働関係は、もっぱら第一審原告ネッスルの意向に従って律せられていたと推認することができ、仮に日高工場の労働関係をめぐって不当労働行為が行われたとするならば、その工場に属する労働者と直接労働契約関係に立つ第一審原告日高乳業が救済命令の当事者となりうるのは勿論であるが、更に、第一審原告ネッスルも、労働契約上の当事者と同一視しうる程度に日高工場の労働者の労働関係の諸利益に直接の支配力ないし影響力を及ぼし得る地位にあったということができるのであるから、労働組合法七条所定の使用者として救済命令の当事者となりうるといわなければならない。」を加え、裏五行目の「元ネッスル労組等が分裂するに至った経緯について」を「補助参加人ネッスル労組ら申立人の労働組合性について」に改め、裏六行目の」「次の事実は当事者間に争いがない。」を「弁論の全趣旨(呼称の点を除き、第一審被告による本件救済命令の命令書(甲第一号証)記載の認定と第一審原告らの主張との間に食違いがないことを含む。)によれば次の事実が認められる。」に改め、裏一一行目の「組合規定」を「組合規約」に改める。

四同一五枚目中、表六行目の「監査委員二名を含む二七名」を「本部監査委員二名を除き二五名」に改める。

五同一六枚目中、表一行目の「右大会代議員選挙では」の前に「同年一〇月二三日開票された」を加え、表三行目の「三浦一昭が」を「三浦一昭」に改め、表四行目の「の四名が」を「といずれも三浦派に属する四名が」に改め、表八行目から表九行目にかけての「三浦派」の次に「に属する代議員」を加え、表一〇行目の「組合本部派の」の次に「代議員」を加え、裏四行目の「三浦一昭は」を「三浦派は」に改め、裏八行目の「得た」の次に「が、その余の仮処分申請を取り下げた」を加え、裏九行目の「組合本部派」の次に「代議員三九名」を加え、同行目の「によって、」の次に「定足数不足のまま」を加え、裏一一行目の「そこで、」の次に「三浦派に属する」を加え、同行目の「同月一七日ないし同月二七日に」を「同月中旬から昭和五八年二月にかけて」に改め、裏一三行目の「本部執行委員長」の次に「の地位にあることを仮に定めるとの地位確認並びに同三浦の本部執行委員長」を加える。

六同一七枚目中、裏三行目の「第三号証各証」の次に「、第七ないし九号証の各証」を加え、同行目の「二二、」を「二二号証、第二七号各証、第」に改め、裏四行目の「三〇一号証」の次に「と弁論の全趣旨」を加え、表八行目の「翌七日には、」の次に「運動方針案のほか『機関役員、代議員になるには、団結強化のため方針を遵守し、実践すること及びインフォーマル(組合本部派によれば、第一審原告ネッスルの意を受けた分派組織で三浦派を指すもの。)に加わっていない旨を誓約する書面を全組合員について必要とする。』との附帯決議を採択するとともに、前記のとおり一般選挙で当選した」を加え、表九行目の「が団結権強化のための」から表一〇行目の「加わっていない旨の」までを「についても右の」に改め、表一一行目の「認める旨」を「認め、その他の役職については、改めて立候補者を募り、同月一三日に予定された続行大会においてその投票を行う旨」に改め、裏四行目の「委員」を「役員」に改め、裏一〇行目から裏一一行目にかけての「求める等の」を「求めること及び支部大会の構成員となるための要件として、団結強化の方針を遵守し、インフォーマル組織に加わっていないことの誓約書の提出を求めることを内容とする」に改め、裏一三行目の「確認書」を「誓約書」に改める。

七同一八枚目中、裏七行目の「再選し」の次に「、また、従来の本部中心の組織を支部の独立性を強めたものにするなどの規約改正をし」を加え、裏二行目の「支持する」の次に「元労組日高支部執行委員長」を加え、裏四行目の「同労組は」を「佐藤らは、昭和五八年一月八日」に改め、裏五行目の「右大会を開催し、」の次に「確認書を提出しなかった者はインフォーマル組織の構成員であること及び」を加え、裏一三行目の「三浦派」の前に「他方、元労組日高支部に属する者らのうち」を加える。

八同一九枚目中、表一〇行目の「斎藤勝一らが」の次に「確認書、誓約書の提出を求めるなどして三浦派を排除し」を加え、表一二行目の「公示」の次に「から昭和五八年一月一五日の同大会の開催、同年三月二〇日の第一九回臨時全国大会の開催までの一連の経過」を加え、表一三行目の「組合本部派は、」の次に「遅くとも昭和五八年三月二〇日までに」を加え、裏二行目の「については、右斎藤らが」を「についても、佐藤らが同様三浦派を排除し」に改め、裏三行目の「、その執行部」から裏四行目の「昭和五八年一月八日」までを「た昭和五七年一二月三一日の第一一回日高支部大会開催の公示から同年四月一六日の第一二回臨時日高支部大会の開催までの一連の経過」に改め、裏五行目の「労働組合となり、」の次に「その間、遅くとも、元ネッスル労組の組合本部派が右のとおり分離独立した労働組合となった昭和五八年三月二〇日までに」を加え、裏八行目の「認めるのが相当である。」を「認められるが、補助参加人ネッスル労組は昭和五八年一月一五日に、元労組日高支部は同月八日に、それぞれ反対派を排除し独自の構成員が集まって大会を開催し、組織の根幹をなすというべき役職の選出を終えて組織の存在と独自の活動を宣明したと評価することができるから、厳密にはこれらの日に独立の労働組合として存在するに至ったと認めるのが相当である。」に改める。

九同二〇枚目中、表三行目の「第二項の」を「第二項に」に改め、同行目の「同第四項」の次に「にほぼ対応する趣旨」を加え、表五行目の「ところで、」の次に「本件のような救済命令の取消訴訟は行政処分の取消訴訟に属するから、係争処分が処分時において違法であったか否かを判断することが必要かつ十分であり、救済命令発令のために必要な当事者適格を定めた」を加え、表六行目の「合議の時点までにそれが充足されればよい」を「救済命令発令の時点において充足されることを要し、かつ、それで足りる」に改め、表七行目の「相当であ」の次に「り、この理は、不当労働行為として救済申立の対象とされた使用者の行為類型がまだ結成途上の労働組合の結成等に対する支配介入である場合にも、何ら異なるところはないというべきであ」を加え、同行目の「そして、」の次に「遅くとも昭和五八年三月二〇日までに」を加え、表八行目の「、執行部体制」から表一〇行目の「一月八日であっ」を削り、表一〇行目から表一一行目にかけての「乙第四三号証によれば」を「乙第四二、四三号証、丙第五、六号証に弁論の全趣旨と前記認定事実を総合すれば、組合本部派が昭和五八年三月二〇日定めた補助参加人ネッスル労組の規約上、事業所又は実情に応じて地方別に支部を設けることとされ、支部は組合本部の規約に準じて規約を定め、自主性が認められることとされていること」に改め、表一二行目の「決定し」の次に「、前労組日高支部は、その証明を受けて同年一二月一九日登記を経由して法人格を取得し、また、補助参加人ネッスル労組は、資格審査を受けて、昭和六一年三月一九日中央労働委員会から、更に昭和六二年二月一三日第一審被告から、それぞれ法に適合する旨の決定を受け」を加え、裏二行目の「同補助参加人」を「補助参加人ネッスル労組ら申立人」に改め、同行目の「合議の時点までに」を「救済命令発令の時点において」に改め、裏一〇行目の「昭和六二年三月二〇日」を「、遅くとも昭和六二年三月六日」に改め、裏一二行目の「ところで」の次に「、行政事件訴訟法九条括弧書は、行政庁の処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった場合には、それでもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者のみが取消訴訟を提起し得る旨を規定している。そして、救済命令の発令後事情の変更があり、救済命令の履行が客観的にみて不可能となった場合等においては、救済命令はその基礎を失いその拘束力を失うと解するほかはないが、このように救済命令の拘束力が失われた場合には、使用者は、その時点以降救済命令に従う義務がなくなるといわなければならない。そうすると、救済命令の拘束力が失われる前に救済命令に従った履行が行われ、その回復をするために救済命令の取消しをすることが要求されるなど特段の事情のない限り、使用者が救済命令の取消しを求める法律上の利益は失われると解するのが相当である。本件においては」を加える。

一〇同二一枚目中、表二行目の「いずれも」の次に「前労組日高支部の労働組合としての一般的、第一次的な目的活動に係わり、」を加え、表三行目の「という」を削り、表六行目から表七行目にかけての「伴うものではないので」を「伴うものではなく、本件の全証拠によっても前記の特段の事情のあることは認められないから」に改め、表七行目の「必要性」を「利益」に改め、表九行目の「各命令部分」の次に「の取消を求める訴え」を加え、表一〇行目の「不適当」を「不適法」に改め、裏一行目の「次の事実は当事者間に争いがない。」を「弁論の全趣旨(第一審被告による本件救済命令の命令書(甲第一号証)記載の認定と第一審原告らの主張との間に食違いがないことを含む。)によれば、次の事実を認めることができる。」に改め、裏六行目の「結んだ。」を「結び、第一審原告日高乳業は、その協定に基づき同組合員の給与から組合費を控除し、同支部の指定する口座に振り込み送金していた。」に改め、裏一〇行目から裏一一行目にかけての「応じなかった。」の次に「(この事実は当事者間に争いがない。)」を加え、裏一二行目の「乙第三三号証の三及び乙第六五号証」を「乙第三〇号証、第三三号証の一ないし三、第六三、六四号証、第六五号証の一ないし三七」に改める。

一一同二二枚目中、表一行目の「前労組日高支部は、」の次に「第一審原告ネッスルに対して昭和五八年二月頃から再々にわたり、また第一審原告日高乳業に対しては」を加え、同行目から表二行目にかけての「九月一六日」を「九月五日頃」に改め、表三行目の「補助参加人ネッスル日本労働組合日高支部代表者」を削り、表五行目の「認められる。」の次に行を改めて

「(三) 前記のとおり、前労組日高支部は、遅くとも昭和五八年三月二〇日までに、厳密には同年一月八日までに独立の労働組合として存在するに至っていたのであるから、右のとおり第一審原告日高乳業が前労組日高支部からの要求を無視してその所属組合員の給与から組合費を控除し、かつその返還要求に応じなかったことは、不当労働行為の評価を免れないと判断される。」

を加え、表七行目の「原告日高乳業」を「第一審原告ら」に改め、裏一行目の「本件取下下は」を「本件取下書の提出は」に改め、裏六行目の「主張するが」の次に「、救済命令は行政処分であることを考慮すると」を加え、裏七行目から裏八行目にかけての「採用できない。」の次に「のみならず、甲第二号証の一、二、丙第四号証の一ないし三、秋田静夫の供述と弁論の全趣旨によれば、前労組日高支部執行委員長として本件取下書を作成し提出した磯貝昭広は、他の二名の組合員とともに昭和六二年二月二八日補助参加人ネッスル労組に対し同労働組合を脱退する旨の意思表示をし、同年三月六日頃改めて書面でその旨を届け出たことが認められ、この事実によれば、磯貝は同年二月二八日に補助参加人ネッスル労組に対して、前労組日高支部を脱退するとともに同支部執行委員長の地位を辞任するとの意思表示をもしたと推認することができる。そうすると、本件取下は、権限のある者によってされたということもできない」を加え、裏一一行目の「昭和六二年三月二〇日」を「、遅くとも昭和六二年三月六日」に改める。

一二同二三枚目中、表七行目の「したがって、」を削り、同行目の「の金銭に関する公法上の債権関係の」を「により第一審原告日高乳業に対し課された金銭に関する公法上の義務の履行を受ける」に改め、表八行目の「清算の」の前に「前労組日高支部の」を加え、裏一行目の「命じた。」の次に「なるほど、救済命令は、使用者に懲罰を加えたり、労働組合又は労働者の受けた損害について私法上の賠償を受けさせるものではないから、仮に右の命令がこれらの趣旨でされたとするならば、労働委員会の裁量権の範囲を越えたものというべきである。」を加え、裏二行目の「このことは」を「甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば」に改め、裏七行目の「解される」を「認めることができる。」に改める。

一三同二四枚目中、表七行目の「日高工場」の前に「秋田静夫の供述、弁論の全趣旨に前記認定事実を総合すれば、」を加え、表九行目から表一〇行目にかけての「(以上は、原告らの自認するところである。)」を削り、表一〇行目から表一一行目にかけての「(当事者間に争いがない。)。」を「こと、」に改め、表一一行目の「西日本」を「南日本」に改め、表一二行目から表一三行目にかけての「(原告らの明らかに争わないところである。)。」を「ことが認められる」に改め、裏四行目の「趣旨」から裏六行目の「場合においては」までを「認定事実によれば、陳謝文の掲示が命じられた日高工場は使用者である第一審原告らの支配を離れたため、客観的に見て第一審原告らはもはや救済命令中右の部分を履行することが不可能となっており、他方、補助参加人ネッスル労組の組織対象とすべき従業員もいなくなったのであるから、仮に右の救済命令に従った陳謝文が掲示されたとしても補助参加人ネッスル労組にとっても不利益回復の方法として意味をもたない事態に立ち至っており、結局」に改め、裏一一行目の「部分」の次に「の取消を求める訴え」を加え、裏一二行目の「不適当」を「不適法」に改める。

一四同二五枚目中、表一一行目から表一二行目にかけての「応じなかった。」の次に行を改めて

「前記のとおり、前労組日高支部は、遅くとも昭和五八年三月二〇日までに、厳密には同年一月八日までに独立の労働組合として存在するに至っていたのであるから、右の(1)、(2)の事実を評して不当労働行為というのに何らの妨げもないというべきである。」を加え、表一三行目の「弁論の全趣旨によれば」の次に「、第一審原告らは補助参加人ネッスル労働組合及び前労組日高支部が実態として存在していることを認識しながら」を加え、裏三行目の「のみであり」を「のみであると一方的に判断し」に改め、裏七行目の「証拠によれば」を「証拠と弁論の全趣旨を総合すれば」に改める。

一五同二六枚目中、表四行目の「スト権」の次に「投票」を加え、表六行目の「近藤十二に対し、」の次に「川副智也係長と二人でこもごも」を加え、表一三行目の「第一七回大会」の前に「元ネッスル労組の」を加え、同行目の「に関連して」を「までの経過の中で」に改め、裏六行目の「堂下健二」を「堂下健次」に改め、裏一一行目の「アカだ。」の次に「共産党員が多い。」を加える。

一六同二七枚目中、表四行目の「に関連して」を「までの経過の中で」に改め、表五行目の「昭和五七年」の次に「一〇月一五日頃、佐藤廉次係長は三浦俊弘に対し、『今の組合は共産党だ。このまま任したら会社を潰されてしまう。』などと言い、その後『支部代議員選挙で確実に俺の言った人に投票してくれたか。』などとも述べたが、更に、同年」を加え、裏二行目の「同月二九日」を「同年一二月二九日」に改める。

一七同二八枚目中、裏二行目の「丙第一二号各証」の次に「、第六六ないし六九号証、第七〇号各証」を加え、同行目の「弁論の全趣旨」の次に「と前記認定事実」を加え、表八行目の「してきたこと」の次に「、第一審原告ネッスルにおいては、労働組合組織を使用者側に協力的なものにさせる目的で本社管理職の中枢までも動員して組織的かつ計画的に元ネッスル労組の島田支部の運営に介入したこと」を加え、裏五行目から裏六行目にかけての「行われてきたこと」の次に「、第一審原告ネッスルでは管理職の中枢までも関与して元ネッスル労組の他支部に支配介入した例があること」を加える。

一八同二九枚目中、表二行目から表三行目にかけての「原状回復的」を「原状回復」に改め、表六行目の「入れており」から表八行目の「しかしながら」までを「入れているが」に改め、裏三行目の「また」の次に「、第一審被告が『深く陳謝します』などの文言を用いたことは、右のポストノーティス命令の趣旨、目的に照らし、適切さを欠く面があるが、前記の認定事実の下においては第一審原告らの不当労働行為に対する救済方法として行き過ぎたものとまではいえず」を加える。

第二よって、原判決は相当であって、甲事件についての第一審原告らの本件控訴、乙事件に関する補助参加人労組日高支部の本件控訴は、いずれも理由がないから、それぞれこれを棄却し、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官磯部喬 裁判官竹江禎子 裁判官成田喜達)

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